近年、終活ブームやコロナ禍の影響で遺言書の需要が高まっています。
私の事務所への遺言書についての相談も年々増えていますからね。
今回は、そういった相談をうけるなかで実際にされた「自筆証書遺言は貸金庫に保管してもいいのか?」という質問を取り上げていきたいと思います。
この質問に対して、私の事務所では貸金庫への保管はやめるように説明をしています。
その理由などについて書いていきます。後半では「貸金庫使用権の相続」や「自筆証書遺言を何処に保管したらよいのか?」についても解説していきます。
自筆証書遺言を貸金庫に保管してはいけない理由
自筆証書遺言は紛失しやすいという問題があるので、その点に関しては紛失の可能性がない貸金庫は保管場所として良いのではないかと思います。
ただ、貸金庫は「遺言書の発見が遅れる」という可能性が高くなります。
遺言書は発見されないと意味がないですし、また発見に時間がかかるというのも相続人に負担をかけるので良くないものです。
なので、自筆証書遺言の保管場所として貸金庫を選択するのは避けましょう。
当然ですが、遺言書の効力が発生する時には遺言者はいません。
なので、そのことをしっかりと想定したうえで保管場所を考える必要があります。
なぜ貸金庫に遺言書を保管すると発見が遅れるのか?
相続が発生すると、貸金庫の中身を受け取るのに、名義変更等の相続手続きが必要になるからです。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を提出するように言われたり、相続手続きの書類に相続人全員の署名捺印を求められたりします。
なので、中身を確認するまでに数か月かかります。
自筆証書遺言は検認が必要
さらに自筆証書遺言は、家庭裁判所において「検認」という手続きが必要となります。
この手続きを行わないと、自筆証書遺言を相続手続きで使うことができません。
大変な思いをして貸金庫から遺言書を取り出したのに、さらに家庭裁判所で手続きが必要なのですからね。残されることになる相続人の負担を考えると大変です。
貸金庫使用権の相続について
ちなみに、貸金庫契約は、被相続人(亡くなった方)の死亡によって当然に終了するものではなく、相続人に承継されるものです。
なので、貸金庫使用権を相続させようと考えているのでしたら、そのことを遺言書に記載しておく必要があります。
どの貸金庫なのか分かるように、次のことは明記しておきましょう。
- 銀行名
- 支店名
- 番号
これらの情報があれば、相続人はすぐに貸金庫を特定できますからね。
遺言執行者の職務として遺言書に書いておく
どうしても貸金庫に遺言書を保管しておきたいという方は、遺言執行者の職務として貸金庫の開扉を明示しておくことをおすすめします。
遺言執行者を指名するだけではなく「職務」として遺言書に記載することがポイントです。そうすることにより銀行の対応もスムーズになります。
自筆証書遺言はどこに保管したらよいのか?
最後に「自筆証書遺言はどこに保管したらよいのか?」です。
よく聞かれる質問です。
自筆証書遺言を作成した際は、家族や遺言執行者など、遺言者が亡くなった事実をすぐに知ることができる人に保管してもらうのがベストです。
遺言書保管場所(法務局)への保管も検討する
民法が改正されて「自筆証書遺言の保管制度」が新しく設けられています。
貸金庫同様、自筆証書遺言の紛失を防ぐことが可能です。
こうした制度を利用して保管することも検討してみましょう。
注意点としては、遺言書保管所に遺言書を預けても、遺言者が亡くなった際に、自動的に遺言書が保管されていることを相続人へ通知してくれないことです。
なので、この制度を利用したとしても、保管場所に遺言書を預けたという事実を相続人や遺言執行者へ伝えておく必要があります。